歩み



沙紀は親父のことを知っている。
それもそうだろう。
朝のあの番組を見れば親父の顔を見れるから。
それを踏まえて、沙紀に両親のことを話したら、沙紀は『二人に会いたい』と言った。

なぜそう言ったのか分からないけど、今が絶好のチャンス。
沙紀の『会いたい』という願いは叶ったのだから。



「…キミは?」



親父が部屋の中に入ってくる。
俺の縄張りまで奪わないでよ、と心の中で叫んでも聞こえているわけない。
俺は黙ってその行動を目で追っていく。



「あ、この方は、歩さんの彼女さんなんです。水島沙紀さんと言って…」



間から富田が親父に説明を加える。
その言葉を聞いた親父は、動きを止めて富田の方へと振り向く。


そして低い声で言ったのだ。



「彼女だと?俺は何も聞いていないぞ。なぜ報告をしないんだ?歩のことは常に報告しろと言っているだろ?」




…まるで奴隷だよ。
富田も俺のように自由を奪われてしまったのか。



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