歩み



訴えるけど優の返事は返って来なかった。
当たり前か。


優はこの時、必死で一人で悩んでいたんだ。


数学の先生が、ある公式の手順を説明していた、そんな時。
後ろから優の声が聞こえてきた。


「百合…どうしたの?」



初めて、優が小林のことを『百合』と呼んだ瞬間だった。
それを聞いたとき、体が震えた。
理由は、ただ単純に嬉しかったから。


優は頑張っているのだ。小林との距離を縮めようと頑張っているのだ。



俺は声を出さずに応援をする『頑張れ』と。



けど、小林からの返事はなかった。
きっと小林はまだ精神的にダメージを受けているのだろう。
無理もない。


だから俺は何も言えない。



…放課後、優が俺と沙紀を呼び出した。



「ちょっと話があるんだ…」



その瞳は真っ直ぐで、迷いなど感じられなかった。



だから俺は素直に首を縦に振る。



「話ならいくらでも聞くよ」



俺たちは歩いていく。
向かった場所は駅の近くのファーストフード店。



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