マスカレードに誘われて
ロイが申し訳なさそうに言えば、彼はこくりと首を縦に振った。
そして、真摯な目で二人を見つめる。
「私の言葉を、どうか忘れないで下さい」
「あぁ、分かった。素敵な曲をありがとう」
「いえいえ。幸運を祈ります」
彼は胸の前で十字を切ると、二人に向かって手を振った。
二人も手を振り返し、絵画から離れて歩き出す。
途端、廊下の端から鎧が姿を現した。
距離は離れている。
今だったら、追い付かれずに済みそうだ。
「イヴ、走れる?」
「大丈夫よ。行きましょう!」
彼女の力強い声に押され、二人は走り出した。
床を蹴る音が聞こえたのか、鎧が勢いよく追い掛けてくる。
「今夜だけ……」
ルーベルトの言葉が、やたらとロイの脳内に響いた。