マスカレードに誘われて

彼等に鎧の声は届いていなかった。
ただイヴが、動く鎧に一方的に話しているように見える。

「ねぇ、もう十分でしょ?」

今度はイヴの方から鎧に問い掛ける。
彼女の声が僅かに揺れた。

「今夜だけなのは分かる。それでも、わたしたちにもやらなくてはいけない事があるの」

『……』

「ねぇ、まだ足りない?」

ゆっくり、ゆっくり問い掛ける。

時間が止まったような気がした。
イヴは、甲冑をじっと見つめるだけ。
相手もただ、イヴの事を見下ろしている。
もっとも、甲冑の中身は虚空に過ぎない。

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