あの二人に敬意を払おう



 その水溜まりから、人が出現したのだ。
 正確に言うと人型の水。
 全体的に曲線を描く体。
 目や口といったものは小さな陥没で表現されている。


「――殺しなさい」


 言下。
 スペリシアの命令に呼応するように、目測百体越えの水人形達の体が激震した。


 水人形の波打つ体。
 されど原型は崩さない。
 変化したのは――右腕。


 しなやかなゴムのような右腕から、強固な両刃の長直剣へと変貌を遂げたのだ。


 咆哮。
 ただの水の集合体が、一体どこからそんな声を発することができたのかという疑問は拭えない。
 しかしそれ以上に、共鳴する水人形達の叫び声は、世界崩壊の絶望的情景に拍車をかけているように思われた。


「チッ、悪趣味な真似を」

「うふふ。さあ――何分保つかしら?」

「くだらんっ」


 人形が大地を蹴る。
 前傾姿勢による疾走。
 息を吐く暇こそあれ。数秒で距離を詰めた水人形達が、真紅の鎧へ殺到。


 頭上、跳躍からの上段斬りを放つ敵に、ごうごうと燃え盛る大剣が迎え撃つ。
 ベベリギアの首を狙う直剣を、上体を傾けて鎧で受ける。重心の移動を利用して、真紅の刃が横薙に腹を裂いた。


 声も無く原型を崩す人形。
 ただの水へと還っていく。
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