あの二人に敬意を払おう



「……ッ!」


 直後。
 先刻の一体が捨て駒であったかのように、雪崩のごとく数十体の敵が飛びかかった。


 瞬時に眉根を寄せ、最善の行動を洗い出す。それが終わると身を屈め、前に突進した。
 頭上を跳躍する敵数名をくぐり抜け、前方の数体を薙払う。


 薙払った敵を物言わぬ水に還し、更に踵を返す。背後へ着地を終えた三体の敵に、上段に構えた大剣を振り下ろした。
 続いて両隣の人形に蹴りと裏拳が炸裂。


 紅蓮の腕、脚をもろに受けた水人形は、あっさりとその姿を四散させる。


 どうやら殺害の必要は無いらしい。否、ベベリギアの力が圧倒的すぎるのか。


 約九十。
 スペリシアの姿を隠し、遅れて駆け出す軍勢。
 灰塵を巻き上げ、巻き上がると思えばすぐに雨でたたき落とされる。そんな行為を繰り返しながら、高々と直剣を振り上げる群れへ、ベベリギアは微笑を浮かべた。


「そんなに命が要らんか。そうまで来るなら――消し飛べ」


 刀身に纏わりつく火炎が、形を変えた。
 意志を持ったかのように業炎が吹き出し、ベベリギアは両手で握り締めた大剣を振りかぶる。


 何かを打ち返すかのようなフォーム。敵に対して体を横に向け、左足を上げる。右肩に乗せられた刀身が更に後ろに寄せられると、カッと目を見開いたベベリギアが、右足から左足へ、体重移動を開始した。
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