あの二人に敬意を払おう
「……せあっ」
ぶんっ、と言う野太い風切り音に続き、紅蓮の円弧を描いた大剣から、長大な業炎が射出された。
迫り来る軍勢を一挙に焼き払う火炎の洪水。
右側から左側へ、目を灼く程の紅がベベリギアに映った。
振り切られた真紅の大剣。
そこから発生した灼熱は、水人形の姿を消滅させ、あまつさえ灰色の大地にも微量の火が残されていた。
無論、その射程圏内であろうスペリシアも、無事では済まない。
――が。
「うふふ……」
彼女は――笑っていた。
無傷で、嘲笑していた。
無傷どころか、衣服にさえ火の効果が届かない。焦がすことさえ叶わない。
「私の僕(シモベ)たちをよくもやってくれたわね、ベベリギア」
「あの程度に抜く必要は無かったな、スペリシア。まあしかし、抜いてしまったものは仕方がない。……この俺に《真紅の炎剣(クリムゾンブラック)》を抜かせた以上、無事に帰れると思うなよ」
「帰らないわ。忌み姫が現れるまでは」
緩慢な動作。
スペリシアは、しなやかな細腕を左右に大きく広げた。
地震。
この世界の所有者が、この空間を激しくシェイクしているような、これまでにない大きな揺れがベベリギアを襲った。