ヤサオトコ
「住所が無いと、職を探すのは至難の業だ。金も尽きて、気が付いたら、この始末。情けないよ」
男がぽつりと言った。
「そうは、とても見えなかったけど」
「ホームレスとわかったら、誰が雇うものか。だから、絶対にわからないように、気を配っているんだ」
「そうなんだ」
「髭も毎日剃っているし、体だって洗っている」
「へえ」
「これのお陰さ」
男はバッグの中から、6個入りの石鹸の箱を取り出した。
「何でもこれで洗っている」
男は箱の中から、石鹸をひとつ取り出した。
そして、石鹸の上から香りを嗅いでいる。
「いい香りだ。こいつが無くなった時、俺も亡くなる時かな」
「・・・」
栗崎は男の言っている意味が、よくわからなかった。