ヤサオトコ

 辞職の日。


 栗崎は房江に見送られて会社へと向かった。
 下痢は辞表を会社に提出してから、嘘のように治まっていた。


 今日も、もちろんお腹の調子は快調。
 栗崎は軽やかに、ステップを踏んでいた。


 会社に着いた。
 栗崎は自分の席に付くや、机の中をもう一度点検した。


 引き出しの中は、空っぽ。


 「これで、良し」


 栗崎が、満足そうな顔をして独り言を呟いた。
 栗崎は椅子にもたれて、大きく深呼吸をした。


 「今日で最後ね。残念だわ」


 市村美奈代がお茶を机の上に置きながら、顔を覗くようにして呟いた。
 美奈代は影になり、日向になり、栗崎を擁護していた。






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