ヤサオトコ

 「苦労しているんだ」
 「親の無い子は悲惨だよ」


 郁が本音を、思わず口から吐き出した。


 「それから、ずっと、ホームレス?」
 「うううん。パチンコ屋などで、住み込みで働いた事もあったよ。でも、これが、私には一番合っているみたい」


 郁は栗崎を見て苦笑いをしている。


 「あんたは?」


 自分の事を余り語りたくないのか、郁が栗崎の事に話題を変えた。


 「俺?俺は、つい最近まで普通の会社に勤めていたよ。そこを辞めてから、転々としている。階段を転げ落ちるように、落ちる所まで落ちたという訳。今日は、記念すべきホームレス生活初日なんだ」


 「人間。落ちる所まで落ちれば、本当に楽だよ。自分に正直に生きられるからかな。これ以上落ちる心配も無いしね」


 郁の瞳がきらり輝いた。郁の言っている事は、まんざら嘘でもないらしい。







 
< 244 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop