ヤサオトコ
 
 「落ちる所まで落ちると、自分に正直に生きる事が出来る。そう考えると、落ちるのも悪くないね」


 栗崎には、この生き方も悪くはないと思えた。


 「その通りだよ。自分に嘘付いて背伸びして生活しても、少しも楽しくない。人間、肩の力を抜いて、自分に正直に生きるのが、一番楽なんだよ。一番自分らしいしね」


 「そうかも。郁に会えて本当に良かったよ」
 「私も晃司に会えて本当に良かった」


 何を思ったのか、郁がダンボール紙の上に仰向けに寝転んだ。


 「あっ、そうそう、忘れる所だった。晃司にお礼をしたいのだけど。何も渡す物がないから、私を抱いてもいいよ」


 突然、郁が栗崎を見て真顔で言った。


 「お礼なんかいいよ。お礼を言いたいのは、むしろこちらの方だよ」


 栗崎が、郁に向って手の平を左右に振った。







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