ヤサオトコ
「そうでしょうか」
「ええ、そうよ。ねえ、一度、私のオフィスを覗きに来ない。その時に、事業について詳しく説明するから。ねえ、本気で考えてみてよ」
冴は強引だ。
「分かりました」
「明後日、時間は取れない」
「すみません。明後日は、ちょっと用事がありまして」
明後日は、栗崎の公休日。
その日、栗崎は仕事を入れず、ゆっくりと骨休みをする予定にしていた。
「明後日は駄目か」
冴が手帳をバッグから取り出し、スケジュール表と睨めっこし出した。
「じゃ、明日は?短い時間でいいから」
「仕事に出る前の、1時間位でも構いませんか」
「決まりね。じゃ、約束よ」
冴は約束を取り付けると、仕事があるから、とさっさと帰って行った。
栗崎は、冴の後ろ姿を見送りながら思いを巡らせていた。
(一度、本気で考えてみるか。ホストクラブに長く勤める気など、さらさら無い事だし。階段で這い上がるより、エスカレーター、いや、エレベーターの方が、ずっと手っ取り早い。俺にもやっと運が向いてきやがった)
栗崎は、心の中でにんまりと微笑んだ。