ヤサオトコ
日曜日の午後。
栗崎はケーキを持って房江を訪ねた。
その日、『好かん蛸』は営業していた。
10席ある店の中には、年配の男の客が一人だけいた。
栗崎は客を気にしながら言葉を発した。
「先日はお世話になりました。本当にありがとうございました。これほんのお礼です」
「おおきに。気を使わんでも良かったのに。あれから大丈夫やった」
「ええ、何とか・・・」
「上司から叱られへんかった」
「いつもの事ですから・・・」
「あれ、役に立ったやろ」
「お陰様で助かりました」
栗崎が小さく会釈をした。