ヤサオトコ


 郁は栗崎が浴室を出たまま帰って来ないので、心配で、心配で、念の為『ジェントル』にも電話を掛けてみた。


 案の定、電話を応対した者は、栗崎が店を辞めた事を郁に告げた。
 郁は自分の耳を疑った。


 (店まで辞めるなんて・・・)
 (もう、このまま帰って来ないのでは・・・)


 不吉な予感が、郁の胸を一層締め付けた。




 ワアアーー。




 郁は携帯電話を持ったまま、その場に泣き崩れた。


 (妊娠していない事を、隠さねば良かった)


 (なぜ、もっと早く正直に言わなかったのか)


 後悔が、後から、後から、津波のように押し寄せて来た。
 郁は、押し寄せる津波に飲み込まれ、溺れる寸前だった。
 後悔の波にアップアップしながら、郁は気が狂ったように、激しく激しく涙を零した。










 
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