ヤサオトコ
「この絵、誰が描かれたのですか」
栗崎が房江に尋ねた。
「娘やけど」
「片岡亀太郎張りの絵ですね」
「真似て描いたんやろ。うちは、気に入ってんねんけど」
蛸をモチーフにした水彩画。
青、赤、黄色・・・と、鮮やかな色使いが印象的だ。
「いいですね」
「娘が聞いたら喜ぶわ」
房江の顔が綻んだ。
そこへ、娘の野乃絵が2階から降りて来た。
「お腹空いたわ。何か無いの」
「たこ焼きか、お好み焼きでも食べる。それとも、栗崎さんから頂いたケーキにする」
「じゃ、ケーキを頂くわ」
野乃絵はカウンターの席に座った。
「栗崎さんがあんたの絵を褒めてはったよ」
野乃絵は栗崎を見て小さく会釈をした。