ヤサオトコ

 「勝手にバッグを開けてしまいました。電話したので驚かれたでしょう」


 女は、栗崎の携帯電話を予め綿密に調べていた。そして、その情報を自分の携帯電話に入力した。


 「えっ、ええ。そうしてもらって感謝しています」


 栗崎が礼を述べた。


 「私は上坂絢奈。あなたは・・・」

 絢奈が自己紹介をした。


 「僕は栗崎晃司」




 「栗崎さん、何かお礼は頂けるのでしょうか」




 「えっ、お礼ですか・・・うっかりしていました」
 「もらえないのですか」


 「すみません」
 「何だ。バッグなんか拾わなければ良かった」


 「何が・・・欲しいのですか」


 栗崎は背広の内ポケットから財布を取り出した。


 「実は、宝石が・・・って言うのは、嘘」
 「・・・」


 栗崎は財布の中に目を遣った。






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