彼は人魚姫!
『じゃあ、ちょっとだけ…』と、海堂 凪はカウンターの真ん中の席に腰を下ろした。
何の匂いだろ?ほのかに爽やかないい匂いがする。
香水?
シャンプー?柔軟剤?
あたしが蝶々なら、絶対くっついて離れない。
なんて…バカな事を妄想してる。恥ずかしい。
心のひとりごとが聞こえなくて良かった。


静かな店内にアールグレイの柑橘系の甘い香りが広がって行く。
あたしはこの香りが好き。


「オーナーも紅茶がお好きですよね?」


「分かりますか?コーヒーよりも好きなんですよ。雫さんも紅茶の方がお好きでしょ?普通のカフェを紅茶専門店にしてしまったくらいだから」


「あっ、すみません!お店を私の趣味に変えてしまって」


以前のこの店はもちろん、普通のカフェで、コーヒーがメイン。
軽食やデザートも出していた。
そこをあたしが引き継ぐ時に、大好きな紅茶だけにしようと決めた。
成功するかも分からないし、売り上げに追い詰められたくないからバイトも雇わない。
食べ物も出さず、紅茶だけ。
その代わり、美味しい紅茶をゆっくりと落ち着いて飲んでもらえる空間を提供しようと思った。
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