愛しい子
ソファから崩れかかった私を支えてくれたのは、恵里佳さんだった。
「亜久里、大丈夫?」
恵里佳さんは冷静に私に問いかけた。
なんとか頷いた私は、自分の体が震えていることに気づく。
怖い、怖いよ。
それでも、恐怖で強張る(こわばる)体を動かし、父の方へ向けた。
きっと怒っているのだろう。私を嫌いになってしまったんだ。
だけど、父の顔を見ると驚きでそんな思いは消えてしまった。
――どうして、泣いているのですか?
「っ……なんで、なんでわかってくれないんだ…!!」
父は大粒の涙を頬に這わせ、しかめっ面で泣いていた。
隣ではお母さんが泣きじゃくりながら父さんの腕を掴み、一生懸命に宥めている。
「止めてください…あなた……」
お母さん、泣かないで。お願い、泣かないで。
お父さんも泣かないで。
私が悪かったの、ごめんなさい。もう言わないから。
だから悲しまないで。
私は世界一悪い人間だ。
じわりと、そんな思いが胸に込み上げてきて、ひどい罪悪感に襲われた。
なんて悪いやつだ。なんてひどいやつだ。
怖くなった私は、ゆっくりと口を開いた。
「お父さん……。私、ちゅ、う……」
『中絶します』
そう言おうとした。
すると、急に視界が真っ暗になる。そして温かい。
なんだろう。
顔をあげると、恵里佳さんが私を強く抱き締めていた。
「亜久里、聞いて」
恵里佳さんも泣くのかな。中絶しろとか言われちゃうのかな。
フワリと、私の頭を恵里佳さんの手が優しく撫でた。
「私もね、十七歳で妊娠したの」