愛しい子
とうとう検査の日を迎えた。
「結果が出ました」
「…………」
「妊娠してます」
隣で聞いていた父さんが真っ先に口を開いた。
「中絶にはどれくらいかかるんですか」
「あなた……!」
「お前は黙っていろ」
覚悟はしてた。
だから大丈夫、ってわけじゃない。
でも泣くのは許されない。
「父さん、家でちゃんと話がしたいです」
お父さんは最初迷った様子だったが、わかったと言ってくれた。
私達はそのまま家に帰宅し、家族で話し合うことにした。
「亜久里、ちゃんと聞いてくれ」
リビングのソファに座るなり、父はすぐに口を開いた。
「子供を生むというのはお前が考えている以上に大変なことなんだ。それにお前はまだ十七で、これからのこともある。今ここで、誰にも言わずに中絶すれば大きな騒ぎにもならない。わかるだろ?」
わかるよ、父さん。父さんや母さんは私のことを大事に思ってくれてる。だからそう言うんだよね。
だけどね、ダメなの。
私が今ここで諦めたら、泣いてしまったら、きっと加治は悲しむ。加治を裏切ってしまう。
私、加治を愛してるから。
だから裏切らない。
「産ませてください」
「…だめだ」
「お願いします、産ませてください」
父さんは首を横に振るばかりで、私の話を聞いてはくれない。
それでも私は言い続けた。
「産ませてください」
「だめだと言っているだろ!わがままを言うんじゃない!」
父さんは声を張り上げる。こんなに怒る父さんは初めて見る。それだけに、とても怖かった。
なのに私はまた言った。
「産みたいの!」
叫びに近い声だった。
その声が出た、次の瞬間。
――バシッ!
本当に驚いた。何が起きたかさえわからなかった。
頬がじわじわと痛み、熱を帯びていく。
あぁ、そうか。
私、叩かれたのか。