愛しい子
恵里佳さんが静かに言った言葉を理解するのに、数秒かかった。

「……にん、しんしたの?」

上手く呂律の回らない口調で問いかけると、恵里佳さんは小さく頷いた。






――私と同じ?




「貴女と同じくらいの歳にね、妊娠したの。私の場合はすごく親に反発してて荒れてたから、色んな人と体の関係を持っていた。でも、まさか妊娠するなんて思わなかった」


ぽつりぽつりと、優しく、そして囁くように言う恵里佳さん。その言葉は、まるで心地の良い子守唄のように、私の頭に入ってきた。


「相手の人は産んでくれって言った。私もそれが嬉しくてね、親に産むって言ったら、今の姉さん達みたいに猛反対されたの」


母さん達はそれを聞き、二人とも落ち着いたようにソファに座った。
私も恵里佳さんに促され(うながされ)、ソファに腰をかけなおす。


「今みたいに叩かれたりもした。だから、私は母さん達に嫌われたと思って家を出たの。母さん達は何もわかってくれない、あの人と駆け落ちするって騒いで」


「それで…どうしたの?」


「相手の家に行ったわ。そしたら、相手の人も家族に怒られたみたいで。私に言ったの」
















――やっぱり産まないでって。



「……そんな」

ひどすぎる。いや、きっとそれが正しいのだろう。
でも、そんなのあんまりだ。

不意に、頭に加治の顔がよぎった。

もしかすると、加治も……。




「絶望だった。苦しくて、辛くて。何もかもがどうでもよくなった。あの人に愛されないなら、どうでもいいって。だからね、私……」

その時の恵里佳さんの悲しげな表情で、そのあとどうしたか理解できた。


あぁ、そんな……。
















「中絶したの」
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