愛しい子
父さんと母さんは申し訳なさそうにうつ向いている。きっと二人ともこの事を知っていたのだろう。だから余計に反対した。


でも、私はやっぱり諦めたくない。
恵里佳さんの話を聞いて、さっきの諦めかけていた自分が恥ずかしいと思った。

たとえわがままでも、自分の意思を貫かなきゃいけないときがあるんだ。

嗚咽(おえつ)混じりの声で、私は父さんと母さんに言った。


「私、わかってるなんて言ったけど、本当はわかってなんかなかったんだね」

大変なんてわかってる。わかってるんだ、なんて言ってたけど、全然違った。


「赤ちゃんができるって、私が思ってるより、もっともっと大変で、辛くて、みんなに迷惑をかけるんだね」

私だけの問題じゃない。これはみんなの問題なんだ。


「ごめんなさい、わがまま言って。ごめんなさい、私の不注意でこんなことになって。私って最低だね」


最低だよ、本当に。











――だけど。


「だけど、産みたい。ううん、必ず産みます」

力強く言った言葉は、自分でも驚くほどしっかりとした声だった。


「好奇心とか、妊娠のことを甘く見てる訳じゃないの。単なる産みたいって気持ちで産めるほど、軽いことでもない。それは、父さんや母さんがちゃんと教えてくれたから」

さっきまでうつ向いていた顔を上げ、二人とも私を見つめた。


「私を愛しているからこそ、私を大切に思ってくれてるからこそ、反対してくれる。私のわがままをしっかり受け止めてくれて、父さんと母さんは本当に優しいんだ」

いつのまにか止まった涙の代わりに、心の奥から止めどなく何かが溢れてくる。

それは、弾けるように声に出た。


「私も、同じなの!父さんと母さんみたいに、私も赤ちゃんを愛してる!私の命と同じくらい、大切に思ってる!だから、だから産んであげたいの!」


喉が熱い、頭が熱い。

胸が熱い。


「この命が生まれたことを間違いだなんて思いたくない、思わせたくない!この子は私の赤ちゃんだから、大事な大事な、たった一つの命だから!」


大きく息を吸って、溢れてくる気持ちと一緒に吐き出すように、声を張り上げた。





「この子を産ませてください!!」
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