愛しい子
――プルルル…


いつもならすぐに出るのに、全くでる気配がない。


「…………」


大丈夫よ、そんなはずない。あの人を、加治を信じよう。

そう自分に言い聞かせても、やっぱり出なくて。


「っ、加治のバカバカバカバカ!バ加治ー!」

思いきり叫んでやった。












『誰がバカだこら』


「!」


『どした、てかどうだった』


あぁ、出た。出てくれた。よかった。大好き。



「遅いわよ、バカ!早くでなさいよ!」

『早くって……お前は鬼か!こちとら携帯没収されてたんだぞ!お前からの電話だから許されたけど……』


どうやら加治の方も大変だったみたい。



『ったくよ、マジ痛いつーの。リンチだぜ、リンチ。兄貴二人と親父にフルボッコ。まあ元は俺の不注意が悪いんだけどさ……』


加治の家は最近では珍しく、親父さんとかは厳しくて昭和の時代みたいな人。お母さんはすごく優しいし。お兄さんが二人とお姉さんが一人。妹と弟が一人ずついる大家族。



「ごめん、私のせいで……」

私が申し訳なさそうに謝ると、加治はムッとした。顔見えないからわからないけど、たぶんした。



『は?お前のせいじゃねえだろ。俺だって悪いんだし。てか謝んな、めんどくさい』

「…はい」


本当にこの男は……。人が心配してやってんのに、強がって。少しは素直になれっての。これでも未来の奥さんなのに。
めんどくさいのはどっちだよ。

軽く呆れてため息を吐いた。


『あ……や、違う。間違った。お前が落ち込む必要ねえから、心配すんな』


あれ、いきなり何?
あの加治が優しい言葉言った。珍しい。

いつもは無愛想で素っ気なくて少し乱暴で意地悪なヤツなのに。


「なにその優しさ、似合わない」

加治の珍しい優しさに照れて、つい意地悪を言ってしまう。


『うるせえ。これでもお前が落ち込んで、体に影響でないか心配してんだぞ』


「……心配してくれてるの」

『おう』

「いやん、加治好き」

『うるせえバカ、俺も好き』


なにこの会話。バカップルみたい。

てか、ただのバカ。


でもやっぱり加治が大好き。バカでもいいから好き。
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