愛しい子
家に帰ってから、母さん達に話した。
そこには恵里佳さんがいて、どこか不思議と安心して話すことができた。
「……もう一回言って」
「妊娠したかもしれない」
「……相手は」
「彼氏の加治」
母さんは人形みたいに固まり、隣のお父さんは真剣に私を見ていた。
「姉ちゃんそんなにヤりまくってんの!?」
冗談みたいに笑う弟の初太(ウイタ)。
「何発?何発ヤったらそうなるの?つかコンドームつけろよ」
「初太黙って」
「妊娠とかマジ?すげえ」
「初太!いい加減にして!黙って聞いてなさい!」
怒鳴ったのは恵里佳さん。
温厚で優しい恵里佳さんが怒鳴るのは初めてで、初太はビビってしまいすぐに黙った。
「……亜久里」
父さんが口を開いた。
「中絶しなさい」
「…………」
予想しなかった、わけではない。
ただ、すごくショックだった。それだけ。
でも、絶対負けない。
「産みたいです」
「ひどいと思うよな。でもな、いつか大人になって親になったとき、父さんの気持ちがわかるようになる」
「産みたいです」
「お前のためなんだ」
「産みたいです」
「亜久里!!」
父さんが怒鳴る。
だけど私は父さんから目をそらさなかった。涙目になったけど。
「義兄さん、落ち着いてください」
恵里佳さんが止めに入り、父さんはため息を吐いた。
「……まだね、わからないの。妊娠しているとしたら四週目あたり。次の検査でわかるかもしれないから」
恵里佳さんが話すと、父さんは何も言わず席を立った。重い足を引きずるように、部屋に入っていった。
初太もいつの間にかいなくなっていて、リビングには私と母さんと恵里佳さんだけ。