愛しい子



「姉さん、姉さん」

恵里佳さんは項垂れる母さんを心配し、肩を揺すった。

母さんは震えていて、小さな声で「ダメよ」と何度も呟いている。




「お母さん……」


「……産んじゃだめ……」


「産みたいの」

「ダメよ、産んじゃダメ」


次第にしっかりとした口調で私に言い聞かせる。


「お願い、反対しないで。母さんは貴女を思っているの、わかって。父さんが言った通り、今は辛いかもしれないけど、将来後悔しないためなのよ」


「後悔はもうしてる。でもね母さん。私嬉しいの、赤ちゃんを産みたいの」


泣いちゃだめ。

ちゃんとした気持ちで言わなきゃ。


「赤ちゃんができるっていうのは私が思ってる以上に大変なことなのはわかってる。後悔してる。だからもう後悔したくない」



加治が言ってくれたから、信じてくれって。

その誠意に応えたい。




「一日で決められることじゃない。知ってる。でも、希望を持つとしたら……産みたい」


「……亜久里」


「…………」




「母さんは、賛成できません」


「……はい」


「……ただね、貴女は大切な娘だから。助けてはあげたい」

「…………」

「これから、ゆっくり決めよう。今すぐに決めることはないわ」

「……うん」




今日で二回目の大号泣。

ぐちゃぐちゃな顔で、一生懸命に泣いた。

泣いて泣いて、寝た。
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