愛しい子
検査の日が近づく。
学校には行っているものの、お腹が気になって体育は理由をつけて休んでいる。
数日があっという間に過ぎていき、とうとう明日が検査の日。
最近は眠気がひどかったが、その日の夜は目が覚めてしまった。
何だかわからないが、とても不安で。
日を重ねるごとに、『妊娠』という言葉が重くのし掛かってくる。
まだわからないのに、変な罪悪感に襲われた。
私はなんてことをしてしまったんだろう。
お腹にいる命に、なんと謝ればいいのだろう。
ごめんね、こんな親で。
ごめんね、喜べなくて。
謝っても意味はないのに、謝らずにはいられない。
もうだめだ、このままではおかしくなってしまう。
お母さんやお父さんに相談すれば間違いなく中絶させられる。
そんな根拠のない確信が、私を追い詰めた。
私はどうしていいかわからず、携帯を手に取っていた。
震える指で数字を並べていき、呼び出し音が鳴った。
――ガチャ
『どうした、亜久里!陣痛か!』
「……ふふっ、なわけないでしょ、バ加治」
焦ってかすれた声に、思わず笑みがこぼれた。
『ビビらせんなよな……。どうした?』
「んー、明日検査で、不安だった。ちょっと慰めてほしくて」
『だから、俺も行くって』
「それはダメ。まだ親にも紹介してないし、学校があるじゃん」
『親御さんにはちゃんと挨拶する。お前と子供を任せてもらえるように』
「気が早いって。そういうのは準備ってのがあるでしょ。つか学校はスルーかよ」
『未来の嫁が大変なときに勉強なんかしてられっか』
「うわ、キュンってきた」
『バカ。ていうか、もっと真面目に考えろよ。子供できたかもしれないんだぞ。相手の俺が一緒じゃなくて大丈夫かよ』
「あのねぇ、漫画やドラマじゃないんだから。一緒だったらややこしくなるでしょ。まずは結果が出るまで待って、それから結婚とか決めよう」
『出たよ、口癖』
「は?」
『漫画やドラマじゃないんだから。口癖だよな、お前』
「え、そんなに言ってる?それ」
『……なんつーかさ、お前のそういうとこ好きだわ』
「いきなりだなオイ」
『なんか何事も客観的に見れて、全てに平等で。何か大変なことが起きても冷静に考えて、うじうじしない。すげぇ好きだ』
「……ほめすぎ」
『お前は少し自分に自信持てよ。大丈夫だ。お前が間違うなんてそうそうねぇから。もしも間違えても、俺がいるし』
「…………」
『たまには頼れよ。じゃねぇと俺が不安だ』
ああ、よかった。
愛した人がこの人で、本当によかった。
「……うん、ありがと」
私なんで悩んでたんだっけ。
忘れちゃった。