紅蓮の鬼



目を閉じる。


考えるのはこれからのことだ。


淋には黙っていたこと。


世界を統べる者、つまり、魔王。


俺はその魔王の家臣の家で生まれた。


だから、こんな俺でもやりたい放題で、嫌なことはできるだけ避けてきた。


人間がいる世界に行ったのだって、このミナミ家の次期当主のことで家出したし。


俺が長男だからというだけで、そんなことになるのが嫌だったのだ。


今考えてみれば、ごく普通で当たり前のことなのに。


本当ならここでどう足掻こうと、俺が次期当主になるのは決まっていた。


だけど、そこで幸か不幸か、弟までもが継ぎたいと言い出した。


言い出したら聞かない弟の性格を知っている父母は、一旦この話は保留にした。


俺はこの頃にあっちへ行ったのだ。


機を見るに敏ってやつだ。


あまり教養もなく、賢い訳でもない俺が次期当主などと、あり得ないのだ。


俺が当主になったら破滅するし、この家。


その時はそう考えていた。


だけど今は、違う。


逃げていてはあの時と何も変わっていないじゃないか。


「…………………………」


なんて、そんなことを考えた。


「…………………………」






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