いつかの君と握手
あ! 分かった!


「そうなんです……。だからこれから母の病院へ行くんですぅ」


さすがに涙は出なかったが、必死に声をか細くして言った。
急に泣き出した男の子にうろたえていたカバだったが、あたしが涙の滲んでいない瞳をごしごし拭ったところで、は、としたように息を飲んだ。


「そ、そうだったんだね。何も知らなかったから、ごめんね」


申し訳なさそうに頭を下げた。


「お母さんはきっときみたちの顔を見たら元気になるよ。さ、気をつけていきなさい」


助かった!
ほっとした気持ちを隠して、あたしは神妙に頷いた。


「ありがとう、ございますう」

「ありが、と……ぉ」

「お姉ちゃんとちゃんと手をつないで行くんだよ。迷わないようにね?」


貰い泣きしたカバが、そっと目尻を押さえて言った。


「はい。じゃあ、行こう?」

「うん、おねーちゃん」


カバに見送られて、男の子と手をつないでその場を去った。
あたしたちの姿が構内に消えるまで、カバは手を振っていた。


「……もういいよ。おねーさん」


振り返って手を振り返していた男の子が言った。


「ほんと?」


心臓がどきどきしていたあたしは、恐々と後ろを確認する。
柱や壁に阻まれて、カバのいる外の景色は見えなくなっていた。


「ふわあああー……、助かったあ」


緊張していた反動で、一気に力が抜ける。
へたり込んだあたしは、見上げる位置に変わった男の子の顔にぎこちなく笑いかけた。


「ありがと。すっごく助かった」

「困ってたみたいだったから。勝手におねーちゃんにして、ごめんなさい」


泣いた跡の残る、赤い目をした男の子はぺこんと頭を下げた。


「いいよ、助かったのはこっちだしさー」


よく気のつく子だなー。いい子だ、ほんと。


「お礼に何か買って……って、無理だった、そういや」


財布の中には、さっきのおつりの小銭が少し。
お札はあるけれど、旧札じゃないから使えないし。


は! つーか、これからどうしたらいいんだろう、あたし。
今日の宿もないし、食事代もない。

それにどうやったら元の時代に戻れるんだろう?
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