いつかの君と握手
「祈、みーちゃん? どこに隠れた?」


三津の声。
もう出て行っても安全なようだ。


「戻ろう、ミャオ」


目はすっかり暗闇に慣れていたので、イノリが仕切り板を器用に外すのがよく見えた。
カコカコ、とイノリが板を揺らすと、新しい空間が広がった。
その先に、驚いたような三津の顔。


「すげ。ここ外れるわけ? つーかこれ、防犯上ヤバくね?」

「お隣は佐々木のおじいちゃんだから安全だよ。すごく優しいし」

「そんな問題じゃねーような気がするけどな。まあいいや、無事逃げ切ったからな」


三津の手を借りて、押入れからでた。
三津の後ろにいた柚葉さんと目が合い、ふふ、と笑った。


「比奈子ちゃんがこっちの部屋に入ったときはすんごくヒヤヒヤしたわ。
あの子、あんなに突っ走る性格だったなんて知らなかった」

「イノリが隣への抜け道知らなかったら、終わりでした」


イノリと並んで、畳にへたり込んだ。


「でもまあ、比奈子のお陰で風間さんの居場所が分かったことだし、よかったよな」

「ヒジリ、なかなかいい口実だったと思うわ。舞台に立つ人間って、言葉がすらすらと出てくるものなのねー。
ちょっと尊敬しちゃうな」


柚葉さんの言葉に、うんうん、と同意した。
あの機転はすごい。
人前で演技するんだし、肝が据わってる、というやつだな、きっと。

あたしと柚葉さんの賞賛の眼差しに、三津がぐいと胸を逸らした。


「まーな。これでも主役級の役やってるんで。これくらいオレには簡単なもんですよ」

「ふふ、そうみたいね。でも、実際に借りてなんてないわよね?」

「っ!? …………ウ、ウン」

「借りてないわよ、ね?」

「カリテナイ、ヨ?」


借りてるのか。


三津は明らかに頬を引きつらせている。
あたしですら簡単に分かるんだ。柚葉さんにはもっとバレバレだろうに。

つーか、マジ話だったのか。
尊敬して損した。ちぇ。


「ねえ? ヒジリくん、ちょっとこっちいらっしゃい?」

「ボ、ボク、出かける準備、しない、と、ね?」

「そうね、でも、支度は話し合いのあとにしましょうね?」


じりじりと距離を測る二人。


「イノリ、こっちに来てな?」

「うん、始まっちゃいそうだもんね」


二人とはそんなに長くいないけど、この流れは充分理解できたね、イノリ。

すすす、と隅に二人で移動すると、乱闘開始。
柚葉さんの技のキレはすごいわ、ホント。
足がなんであんな高さまで上がるの。格闘技経験者?
三津の頭のてっぺんに、綺麗に踵落としが入った。


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