平成のシンデレラ

丸まって眠る香子の、頭から被っている上掛けを少し乱暴に剥いで
「おい」と肩をゆすってみた。


パーティで飲んだシャンパンがすっかり睡眠導入剤に
なってしまったのか香子は目を覚ます気配がない。
昼間の疲れもあるのだろう。このまま寝かせてやろうかと
一瞬湧き上がった情けは、寝返りを打った拍子に捲くれ上がった襦袢の裾と
肌蹴かけた胸元に煽られて、欲情にその名を変える。


人差し指と中指の先で露わになっている太腿をなぞる。
触れるか触れないかの微かな刺激では
眠り姫を起こすには至らないらしい。


それならば、とこれまた無防備に曝け出されている首筋から胸元に
唇で触れた。押し当てては撫でて、舌先で舐める。
「ん…」と小さく呻いて無意識に身じろぐさまにまた煽られる。


緩みかかっている腰紐を解いて引き抜くと
襦袢の袷がとろりと落ちて豊かな胸が露わになる。
臍から下を覆う腰巻だけの姿はなんとも淫らで艶かしい。
腰骨あたりの結び目を解いてはらえば、薄闇に白く肌が浮かび上がる。
片膝を軽く立て太腿を合わせた足から視線が外せない。



「参ったな」



和服というのは物足りないほど脱がせやすいのにこの上なく扇情的で
男にとって都合よく作られたものなのかもしれないと
香子のしどけない姿を見ながら、一気に昂ぶりそうになる思いを
深く息を吐いて諌めた。



しかし、だ。ここまでされたら普通は起きるだろ?
・・・つか、起きろよ!寝こけてる場合じゃないだろう?



「襲うぞ」



小さく呟いて香子の寝顔を覗き込んでみた。
紐を解かれラクになったのか、うーん・・・と伸びをして体を上向きにすると
両手両足を広げて大の字になって、また穏やかな寝息を立て始めた。



おいおい・・・



「興醒めだな・・」



どれだけ愛しい女でも、こうも無防備な姿で
堂々と寝ているのをみると萎える。いい気なものだ、とため息を落として
剥いだ上掛けを掛けなおしてやった香子の額に小さなキスを落とした。



この俺が手も足も出せないなんて・・・な。



萎えた事にはしてみたが、柄にもない誠意は本気の現れかと
嘲るように鼻で笑って静かにドアを閉めた。



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