モラルハザード
「そしたら、奥さん、森川が警察に捕まってるっていうじゃないですか。
それは困ったと思ったんですよ、ほら、だって、あんた言いましたよね、
警察になんかに行ったら一銭も返ってきませんよ…って」
太田と初めて会った日の話しだった。
警察に通報するという太田を止めたくて、口から弾みで出た言葉だった。
「ホントにそうだと思いましたよ、このままだったら、一銭も返ってこないって。
そしたら、右田さんが協力してくれましてね…後はあんたも知ってるとおり
右田さんが警察から森川を出してくれたんですよ」
「右田さん、あなた、私たちのために陽介を
警察から出してくれたんじゃないんですかっ」
思わず私は右田に向かって叫んだ。
「は?私にそんな義理はありませんよ。森川をあんたのために?笑わせるな」
どす黒い顔の右田は鼻で笑った。