【砂漠の星に見る夢】
「―――母上。民衆が七年間もの間、軽石を運ぶだけで高い給料をもらい楽な生活していたら、どうなると思います?」
「えっ?」
「長い間、楽にお金を稼いでしまったらピラミッド建造が終わったあと、民衆はまともに働くことを拒絶するようになるはずです。
だからあえてある程度重くしているのです。
ですが重いといっても人が仕事として耐えられる重さに設定してあります。労働に見合う給料を払うことこそ、民衆の為だと私は思うのです」
少年の口から出る全うな言葉にイシスは自分自身が恥ずかしくなり、身をすくめた。
「ごめんなさい、私が浅はかだったわ」
ヘムオンは優しく微笑んで「いえいえ」と首を振った。
「母上は父上のピラミッド造りに参加しているんですから疑問に思うのは当然です。
当時を知る民衆にも『どうして、こんなに重いんだ』と何度も文句を言われましたが、僕はその度に、父上亡き後、船の特別な操作ができず軽くすることができないと偽り、本当に申し訳ないと、謝っています」
「それができるなんて凄いことよ。でも、それじゃあネフェルはどうしてあんなに軽くしたのかしら」
「父上は多分、民衆とお祭りのようにピラミッドを建造し皆にボーナスを与える感覚でいたのでしょう」
ヘムオンの言葉に、イシスはネフェルのことを思い起こした。
帰還祭の際、町娘に贈呈された花束や自分の身につけた装飾品を民衆に向かって放った、ネフェル。
そう、ピラミッド建造の時もまるでお祭りのようだった。
「そうね、あなたの父上はそういう人だったわ」
イシスは懐かしさに目を細めた。