似非恋愛 +えせらぶ+
「……っ」
ちゅっと小さなリップ音を立てて、斗真が唇に軽いキスを落としてきた。
「さ、準備しようぜ?」
「っ……!」
そんな風に可愛らしい笑顔で言われては、私は降参せざるを得なかった。
かくして、呆気なく降参した私は、斗真と一緒に里帰りをすることとなった。
幼い私が、由宇と斗真と過ごした場所に帰る。
大人の女になった私。
母親になった由宇。
大人の男になった斗真。
私達が、また、同じ空間を共にする。
それはなんだか、複雑で……どこか、嬉しいような気もした。
今の複雑で辛い私と斗真の関係が何か変わるような、そんな淡い期待を、私は抱いていたのかもしれなかった。
あの頃、3人で手を取り合って遊んでいた、優しい時間が――私達を、正しい方向へ導いてくれるような、そんなことを考えていた。