似非恋愛 +えせらぶ+
自分勝手なこともわかっているし、おせっかいなことも重々承知している。氷田君の話を聞いたとして、自分の気持ちに整理がつくとも限らないし、なにかがわかるという保証もない。
それでも、自分が前に進むためにも、話を聞いてみたかった。
氷田君にしても、そんな私の申し出に付き合う筋合いなどないはずなのに、こうして付き合ってくれるのだからかなりのお人よしだ。木戸さんの言葉を借りると優男なんだろうけど、それはあまりに失礼というものだろう。
重い木の扉が開いて、小さな鐘の音がした。その場の雰囲気を壊さない優しい音だ。入ってきたのは氷田君だった。
「あっ、すみません、お待たせしました」
氷田君は謝りながら、私の正面に座った。そしてジントニックを頼む。
「今日は、ほんとうにごめんなさいね、強引に誘って」
「いえ、俺もみあの話を聞いてみたかったので、お互い様です」
ほどなくして氷田君の飲み物が来て、軽く乾杯をする。
「氷田君は……みあのことが好きなのよね」
「はい」
一瞬も迷うことなく、まっすぐに私の瞳を見つめて、氷田君は答えた。その揺るがない瞳に、私はひるむ。
どこまでも、真面目な表情だった。