似非恋愛 +えせらぶ+
お互い、長い間唇を貪っていたと思う。
愛おしむように、存在を確かめるように、唇が重ねられる。
ふっと離れたのは、斗真の方からだった。
「香璃……」
斗真の声が熱を帯び、私の名前を呼んだ。
「……私、帰るね」
でも、次に紡がれる言葉が怖くて、私は切り出した。
「え?」
斗真が呆けた声を出して、間抜け面をする。
そんな斗真を置いてけぼりにして、私は立ち上がって身支度をした。
「ごめんね、付き合わせて。ありがとう」
硬直している斗真に背を向けて、私は斗真の部屋を出た。
私は逃げ出したのだ。
あのまま、斗真に身を任せていれば、私はあっさり斗真に落ちていただろう。
このまま、一緒に時間を過ごせば、斗真のことが好きになるに決まっている。
しかも理由は、弱っていた私を慰めてくれたから、だ。