似非恋愛 +えせらぶ+

 近くにあった落ち着いた雰囲気のバーに入った私達は、テーブル席に向かい合って座った。
 とりあえず飲み物を頼んだものの、何とも言えない沈黙が私達を包む。突然の展開に、私の気持ちがおいつかない。

 それでも、どうにか口を開いた。

「……久しぶり」

 そんなありきたりな言葉しか出せない自分が腹立たしいものの、とにかく落ち着くことが最優先だった。

「無理やり呼び止めて、ごめん。でも、香璃と話したかった」

 私は意を決して、まっすぐ真治を見た。そこで初めて、真治が真剣な瞳で私を見ていることを知る。

「言い訳がましいのもわかってる。未練がましいのも。でも、聞いてほしい」
「……何を?」

 低い真治の声を聴いているうちに、心が妙に落ち着いてきた。心なしか手が震えているし、緊張している。それでも、心は揺れていなかった。

 真治への怒りが消えたわけじゃない。
 それでも、話を聞こうと思った。

< 81 / 243 >

この作品をシェア

pagetop