似非恋愛 +えせらぶ+
近くにあった落ち着いた雰囲気のバーに入った私達は、テーブル席に向かい合って座った。
とりあえず飲み物を頼んだものの、何とも言えない沈黙が私達を包む。突然の展開に、私の気持ちがおいつかない。
それでも、どうにか口を開いた。
「……久しぶり」
そんなありきたりな言葉しか出せない自分が腹立たしいものの、とにかく落ち着くことが最優先だった。
「無理やり呼び止めて、ごめん。でも、香璃と話したかった」
私は意を決して、まっすぐ真治を見た。そこで初めて、真治が真剣な瞳で私を見ていることを知る。
「言い訳がましいのもわかってる。未練がましいのも。でも、聞いてほしい」
「……何を?」
低い真治の声を聴いているうちに、心が妙に落ち着いてきた。心なしか手が震えているし、緊張している。それでも、心は揺れていなかった。
真治への怒りが消えたわけじゃない。
それでも、話を聞こうと思った。