似非恋愛 ＋えせらぶ＋

「香璃、あれは本当に１回だけの過ちだった」
「……あれって？」

　真治が言っていることの意味が分かっていながら、私は惚けた。真治が唇を噛む。

「女を連れ込んだこと……寂しかったんだ」

　悔しさのにじむ声で、真治は続けた。

「香璃が仕事に生きがいを感じているのは知ってた。仕事をしてる香璃は、きらきらしてて、そんな香璃が好きだった。でも、会いたいときに会えないのが、もどかしかった」

　一緒に暮らしていて、それはない。寂しかったなら、言ってくれればよかった。

「寂しいだなんて、そんな話は……」
「言えなかった。仕事を頑張ってる香璃に、もっと俺との時間を大事にしてほしいなんて、そんなことは言えなかった」

　３年も一緒にいた。
　それなのに、真治のそんな言葉は初めて聞いた。

「……寂しかったら、浮気していいわけ？」
「馬鹿だよ、ほんと。寂しさに耐えきれなくなって、あの子をと流れであんなことして……ほんと馬鹿だった……」
「……真治……」

　真治に浮気をさせたのは、私だ。
　私が真治を、構っていなかったんだ。