君の声が響き渡る中で
単純ガール
episode01…16歳 新生活
《新生活》
担任の楢瀬の声が遠くに感じる。窓から微かに入ってくるギターの音に集中する。授業でやっているのか、まだ初々しい音を出していた。
♪~…カチ、♪~……カチ、…
シャーペンをギターの音とリズムよく鳴らしていく。この二つのハモりがなかなかいい。楽しくて、少し唇が広がる。
「…!矢沢!!」
ハッと前を見上げると、楢瀬がプリントを指さしていた。顔は…引き攣り顔。ほら、あの…お笑い芸能人…。本気で眉が上がっている顔が凄く似ている。
「持ってきたか!?」
進路…調査……?
周りが私に振り向き見ている。
「…持ってきてないです」
周りの視線が楢瀬に変わる。楢瀬は手に持っているプリントを中指と人差し指の間に挟み、ため息混じりで言った。
「明日には白紙でもいい、持ってこい」
あのまま、あの手錠を脚や手にはめられ無理矢理動かされたあそこにいたら何て書いてあったのだろう。
鞄をあけ、奥底でぐちゃぐちゃにされた紙を楢瀬に突き出した。