紺碧の海 金色の砂漠

(4)砂の迷路

(4)砂の迷路



ドアがノックされスーツ姿の男が通された。

ヤイーシュ・アリ・ハッダード・アル=バドル、シークの地位にある男だ。砂色の肩より長い髪をひとつに縛り、左右の頬に掠り傷があった。青い瞳には疲労が見え、事態の混迷さを色濃く映し出している。

そして、ミシュアルが一際驚いたのが、シャツの胸元から見え隠れする白い包帯。

彼は大股で部屋を横切り、ヤイーシュの腕を掴んだ。

ヤイーシュは微かに頬を歪める。包帯は胸元だけでなく、手首からも見えた。


『日本で襲われたのか? 何が起こったのだ。説明いたせ!』

『はい、陛下。まずはじめに、笹原家ならびに月瀬家の皆様に、一切被害はありませんのでご安心下さい。そして、私が本国に異変を感じたのが三日前のこと――』

 

普段であれば綿密に連絡を取り合うヤイーシュとターヒルであるが、今回は少し様相が違った。

ターヒルが新婚ということもあり、クアルン時間で夜間に連絡は取らぬよう配慮したのだ。

もちろんそれだけでなく、ヤイーシュのほうにも様々な事情があり……。


早く言えば、反日組織が逮捕された、との連絡を受けてから丸一日以上、ターヒルと話していなかったのである。
 

現在、複数の中東国家で連鎖的に暴動が起こっていた。

もしミシュアルの従兄にあたる、亡きマフムード王太子が即位していたなら、クアルンもその煽りを受けていただろう。


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