愛と欲望の螺旋(仮)

「あの…私。」


言いかけた時、


「知っているよ?」


ゆったりした口調でほほ笑んだ。


そっか…黒崎の兄弟だから、私がここに住むことは知っているんだ。


不審者って思われないことに、どこか少し安心した。


しかし、黒崎の家系は美形なの?


この人、黒崎とは全くタイプが違うけど。


ほんのり茶色の髪。


柔らかい物腰。


整った顔立ち。


まるで、王子様って言葉がこの人のためにあるって言ってもおかしくない。


ほほ笑んだその場の空気は、ポワーンとしていて。


アルファーファがダダ漏れってくらい。


雰囲気まで落ち着いてしまう。


普通なら、兄弟が帰って来たって戸惑って警戒しなきゃいけないのに。


この雰囲気。


警戒心のシャッターを自然と開けてしまう。


だって、こんな穏やかそうな人は、絶対に危害を加えない。


そう確信させる。


こんな人が、私の為に家に帰って来れないなんて。


ホント、申し訳なくて。


「すみません。」


思わず軽く頭を下げた。

< 52 / 69 >

この作品をシェア

pagetop