愛と欲望の螺旋(仮)
「あの…私。」
言いかけた時、
「知っているよ?」
ゆったりした口調でほほ笑んだ。
そっか…黒崎の兄弟だから、私がここに住むことは知っているんだ。
不審者って思われないことに、どこか少し安心した。
しかし、黒崎の家系は美形なの?
この人、黒崎とは全くタイプが違うけど。
ほんのり茶色の髪。
柔らかい物腰。
整った顔立ち。
まるで、王子様って言葉がこの人のためにあるって言ってもおかしくない。
ほほ笑んだその場の空気は、ポワーンとしていて。
アルファーファがダダ漏れってくらい。
雰囲気まで落ち着いてしまう。
普通なら、兄弟が帰って来たって戸惑って警戒しなきゃいけないのに。
この雰囲気。
警戒心のシャッターを自然と開けてしまう。
だって、こんな穏やかそうな人は、絶対に危害を加えない。
そう確信させる。
こんな人が、私の為に家に帰って来れないなんて。
ホント、申し訳なくて。
「すみません。」
思わず軽く頭を下げた。