ナツメ
「ねぇ」
「なに」
「息は?」
「は?」

振り向いてこっちを見る。
料理を遮断されて不服そうな顔をしている。

「息はしててもいいの?」

呆気にとられたような顔。
それから、くっと喉の奥で笑って
「ご自由に」と言った。

じゃあ呼吸を繰り返そう。
他にすることはないのだから。

ただナツメの背中を、呼吸を繰り返しながら見つめていた。

てきぱきと手際がいい。
包丁の音。
ジュッという油の音。

命じられた通り、わたしはそこから一歩も指一本も動かさなかった。
この部屋の主の背中をバカみたいに見つめていた。
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