ナツメ
鳥かごから視線を外して、大袈裟に見えないように、ゆっくりゆっくりと視線を移動する。

わたしからかなり離れたところに彼はいた。


普通こんなに距離があったら足音なんて聞こえない。
それでも、わたしの耳はそれを捕えた。


犬が並ぶガラスケースの前。

ショップの制服に身をまとったナツメがそこにいた。

朋子に話しかけている。
懐かしい声。

わたしの耳はナツメの声までキャッチした。

「抱っこしてみますか?」

ナツメが笑っている。

彼の爽やかな笑顔に、飼う気のない朋子が戸惑い、そしてはにかんだように頷く。
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