本気の恋の始め方
「あーっ、私の潤がとられちゃうーっ!」
私が相変わらず千野君と時々会っているということを聞いて、鮎子さんがものすごく悔しそうな顔で、社員食堂で地団太を踏んだ。
カッツン、カッツン、ヒールの音が響く。
「あ、鮎子さんっ……!」
誰にも聞かれないようこそこそ話して聞かせているというのに、彼女のすべてを台無しにしそうなその声に、思わず椅子から腰が浮きかかる。
ただでさえ鮎子さんは、その美貌と毒舌と社内の立ち位置で目立つのに……。
「大丈夫よ。ここ、秘書室ゾーンだもん。遠いし、聞こえないわよ」
鮎子さんはそう言って、はあっと大きなため息をついたかと思ったら、気を取り直したように、トレイの上のカツ丼をもぐもぐと頬張り始めた。