本気の恋の始め方
私は生まれたての子鹿のようにぷるぷると立ち上がりながら、壁づたいにオフィスへと戻る。
デスクにつき、お茶を飲み、深呼吸を繰り返しても、動悸はいっこうに収まらない。
それどころか、時間が経つほどに混乱は増していくような気がした。
「次のお茶だし、私が行ってもいいですかぁ?」
そんな私の動揺をよそに、隣の席の咲子ちゃんがのんきに声をかけてくる。
「あ、はい。どうぞ、ぜひ、お願いします……」
そのほうが私も助かる。
この状態で行ったら、間違いなくお茶をひっくり返しそうだもの。
「あ、ずるい、あたしもいきたーい」
「だめ、早いものがちなんだからぁ」
咲子ちゃんたちはきゃっきゃと楽しそう。
結局、第三会議室の打ち合わせは結局3時間近くにもおよび、その間彼女たちは、入れ替わりたちかわりお茶を運んでは、誰々がかっこよかったとかそんなことで盛り上がっていたけれど。
その間私は入力一つできず、ぼんやりと、椅子に座っていただけの給料泥棒だった。