主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
「おい十六夜。息吹を女として意識したのはいつ頃のことだったか覚えているか?」


赤子が生まれてからこっち、昼頃には起きて息吹と赤子との時間を取っていた主さまの前に現れた銀は、途方に暮れた顔をしていた。

主さまは櫛で髪を梳いてくれている小さな子供たちに他の部屋で遊ぶように言うと、腕に抱いていた赤子を息吹に渡して眉を潜めた。


「…それを息吹の前で言わなければいけないのか?」


「ああ、言え。いつだった?」


隣の息吹が好奇心全開の瞳で見ているので、主さまはものすごく居心地が悪い思いをしながらも、口ごもりながらそれを明らかにした。


「正確に言えば…まだ息吹が乳臭くてちんちくりんの頃に見た夢の中の息吹だ。…実際は息吹が幽玄町を出て晴明の屋敷で暮らしていた時だな」


「ではそんなに時をかけずして夫婦になったということだな?すぐに手を出したのか?さすがというところか」


話している途中息吹が夫婦の部屋に入って行くと、箪笥の中から1枚の絵を取り出してきて銀に見せた。

まだ幼い頃主さまが夢の中で見たという件の絵なのだが…この絵の中の自分は妖艶でいて色ぽく、自分とは全く似ていない。

だがこの絵がなければ、もしかしたら主さまに女として意識してもらえなかったかもしれないという大切な絵だ。


「これか。…んん、まあ似ていなくはないが…これがきっかけで息吹を女として意識したのか?」


「…お前は何が言いたいんだ?また若葉関連で頭を悩ませているのか。若葉はどこへ行った?」


「丙の所へ行った。…あいつ…身体がぐにゃぐにゃしていて…女みたいだったんだ。久々に間近で顔を見たんだが…女だった」


ぽつりと呟いた銀の耳と尻尾は垂れ下がり、しゅんとなった姿にきゅんとした息吹は、銀のふわふわの尻尾を撫でながら微笑んだ。

…ようやく銀が若葉を女として意識したことを実は喜んでいたのだが…若葉はどう思っているのだろうか?


「私は若葉の年頃の時に主さまと夫婦になったの。銀さん…若葉はもういつお嫁に行ってもおかしくないんだよ。そんな大切な時期に女遊びばかりしていていいの?1番綺麗な時期を見逃しちゃってるんだよ?」


子供たちがきゃっきゃと声を上げて廊下を走り、そんな子供たちの後に雪男が続いて遊んでいる姿が目に入った。

…あんな風に遊んでやったこともなければ、ずっと一緒に居たこともない。


銀の胸は後悔で満たされていた。
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