主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
どこかつらそうな表情をしている銀が若葉の育て方を間違ったのではないか、と悩んでいることを看破した息吹は、密かに猫又を使いに出してある人物を呼ばせていた。


「お呼びかな?おや、どうしたことかそこの白狐が悩みを抱えているように見受けられるが」


「…晴明か。そうとも、俺は今悩み中なんだ。若葉のことでな」


「またそれか。そなたは顔を出しに来たかと思えば口から出るのは若葉の名ばかりだな。それではまるで若葉に惚れているように見えるぞ」


すらすらと嫌味を言っては縁側に腰を下ろして扇子を手に薄笑いを浮かべている晴明をまじまじと見つめた銀は…ぽかんとしていた。

考えたこともない、という顔で見つめられた晴明は、なお銀を深く悩ませるようなことを口にして、孫を腕に抱いた。


「若葉ももう年頃故、すでに丙とかいう男に手を出された可能性もある。そこの鬼は手が早かったぞ。子ができるのもあっという間だった。銀よ、そなたに孫ができるのもそう遠い日ではないな」


「…俺を引き合いに出すな」


「若葉が丙に手を出されたかもしれない、だと?あの餓鬼…俺に挨拶もなくもし若葉に手を出したのであれば…八つ裂きにしてやる」


「銀さん、そんなことしちゃ若葉が可哀そうだよ。若葉の気持ちも考えてあげて」


「物事には順序というものがあるだろうが。細切れにして食ってやってもいいな。男は筋張っていて好きじゃないが、土に還ることすら許さんぞ」


――晴明に“若葉に惚れている”と言われてぎくりとなってしまった心をまた恐れた銀は、早々に腰を上げてどこかへ出かけようとした。

きゃっきゃと楽しそうな声を上げる孫娘を愛おしい瞳で見つめていた晴明は、真面目な顔で銀を見上げた。



「そなたは若葉が嫁に行く想像ができぬのか。嫁に行け行けと口では言いながらも、できぬのだな?」


「…わからない。まだ手元に居て欲しいと思っているのは確かだ。若葉を丙に奪われる位なら…いっそのこと俺が…」



口に出してみて、はっとした。

今自分が口走ったことは…若葉を嫁に出さず、我がものにしてしまおうという考えだ。

今まで考えたこともなかったのに、少しずつ遠ざかって行く若葉に焦りを感じ、そして女を感じてしまった今…どう接すればいいのか、ますますわからなくなってしまった。


「…まあ落ち着け。銀よ、しばらく我が屋敷に滞在するといい。少し若葉と離れてみろ。若葉がどう行動を起こすか、己の目で確かめよ」


…そうしようと思った。

若葉と離れて己を見つめ直そう、と思った。
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