主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
丙の家から戻って来た若葉は、百鬼の群れの中に銀が居ないことに早々気付いてきょろきょろと辺りを捜し回った。


「ぎんちゃん…?ぎんちゃんが居ない…。朔ちゃん、ぎんちゃんがどこに居るか知ってる?」


「知らない」


端的に告げてまた本に目を落とした朔の隣に座った若葉の少しきつい目元は潤み、朔の着物の袖をきゅっと握った。

疎遠になりつつも、銀を百鬼夜行に送り出す日課だけは続けているし、何より…心底から嫌っているわけではない。


「…ぎんちゃんが居ない…」


「…ぎんを避けてたんじゃないの?」


「…だって…ひのえちゃんの話をすると機嫌が悪くなるし…いつも女の人の匂いくっつけてるし…最近添い寝も全然…」


心情を吐露しているうちに泣きそうな表情になってしまった若葉は、喉の奥がきゅうっとなるというはじめての出来事に胸を押さえて俯いた。


…若葉は、泣いたことがない。

“泣き方がわからない”と聴かされていた朔は、腕を伸ばして若葉を抱きしめると、背中を撫でてやりながら火鉢を引き寄せた。


「…本当は知ってるんだ。ぎんはしばらくあの家には帰らない。晴明おじさんの屋敷に滞在するらしい。だから若葉はここで…」


「どうして?どうして帰って来ないの?…私が居るから…?」


唇を噛み締めた若葉がまた苦しそうな表情をして朔の肩を揺さぶる。

何も答えない朔は今すぐ晴明の屋敷へ走って行きそうな若葉を羽交い絞めにして行かせないようにすると、若葉に言い聞かせた。


「一緒に居て苦しいと思ってるから離れるんだ。若葉はそうじゃなくても、ぎんはそうなんだ。…失いたくなければそっとしておいてやった方がいい。それとも…追いかけて嫌われたい?」


「!嫌われたくない…。どうして私と一緒に居て苦しいのか聴きたい…。朔ちゃん…どの位離れてればいいの…?」


「ぎんが“戻ろう”と思うまで。ぎんが迎えに来るまでは、ここに居て。俺がぎんの代わりに若葉を守るから」


すっかり男らしくなってしまった朔の胸にすがりついた若葉は、胸が痛くて苦しくて喉の奥がまた変な音を立てて、ぎゅうっと瞳を閉じた。

主さまと息吹は朔の部屋の外から様子を窺っていたが、銀はいつ戻って来るかわからない。

あの様子では…数日ではないということだけはわかるが、若葉を独りあの家に置くわけにはいけないので、銀が留守をする間は朔に一任させようと決めて部屋を離れた。
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