主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
晴明の屋敷は居心地がいい。
息吹が主さまに嫁ぎ、荒れ果てるかと思った部屋は片づけ上手の山姫を妻に迎えてさらに綺麗になり、息吹が育てた庭の花たちも枯れることなく咲き誇る。
そんな山姫は陽が暮れると主さまの屋敷に戻って百鬼として番をするため、夜は大抵独りで過ごしている晴明と肩を並べて月夜を肴に酒を交わしていた。
「ここは落ち着く。…少し離れてみるのもなかなかいいものだな」
「そうか。私は未だ息吹が居らぬ日々に慣れてはいないが。娘が嫁ぐと心に穴が空くものだよ」
「若葉が嫁いだら俺もお前みたいに抜け殻になるということか?それはない。…いや、わからない」
いつもぴょこぴょこ動いている耳と尻尾は垂れたままで、“居心地がいい”と言いながらも若葉を気にしている風の銀は、まだ手に残っている若葉のやわらかな身体の感触を消し去るかのようにまた着物の袖で擦った。
「丙に嫁いだならば、私のように夫をいびりまくるといい。意外と気が晴れる故、お勧めするぞ」
「…丙に会ってしまったら、殺しそうな気がする。だから会わない方がいいのかもしれない」
いつもの直衣と烏帽子姿ではなく、髪を1本に束ねて濃緑の着物を着崩した晴明は、あまり表情が動かないながらも息吹にちょこちょこついて回っていた若葉の姿を思い浮かべて小さな息をついた。
「そなたの気持ちもわかる。赤子の頃より我が手で育てていた子が離れていこうとするのだから、できれば背中を押してやってほしいが…手放せぬというならば、そなたが嫁に迎えて傍に居ればよい」
「俺が…若葉を嫁に迎えるだと…?」
またざわざわと胸騒ぎがして、“それ以上考えるな”と心が警鐘を鳴らしているのがわかった。
若葉に手を出してしまえば…毎日とっかえひっかえしていた女たちと若葉が同じになってしまう。
…違う。
若葉は、そんな軽い存在ではない。
「俺たちは生きる長さが違うじゃないか。馬鹿なことを言うな」
「十六夜と息吹も、長い間その問題で苦しんでいた。もし息吹が木花咲耶姫の化身でなかったとしても、あの2人は夫婦になっただろう。それほどに想い合い、愛し合っていた。そなたは違うのか?…否定するならば、違うのだろうな」
晴明の言葉のひとつひとつが頑なに閉ざされている心にひびを入れてゆく。
銀は戸惑い、若葉の居ない日々を想像して胸をかきむしる想いになった。
息吹が主さまに嫁ぎ、荒れ果てるかと思った部屋は片づけ上手の山姫を妻に迎えてさらに綺麗になり、息吹が育てた庭の花たちも枯れることなく咲き誇る。
そんな山姫は陽が暮れると主さまの屋敷に戻って百鬼として番をするため、夜は大抵独りで過ごしている晴明と肩を並べて月夜を肴に酒を交わしていた。
「ここは落ち着く。…少し離れてみるのもなかなかいいものだな」
「そうか。私は未だ息吹が居らぬ日々に慣れてはいないが。娘が嫁ぐと心に穴が空くものだよ」
「若葉が嫁いだら俺もお前みたいに抜け殻になるということか?それはない。…いや、わからない」
いつもぴょこぴょこ動いている耳と尻尾は垂れたままで、“居心地がいい”と言いながらも若葉を気にしている風の銀は、まだ手に残っている若葉のやわらかな身体の感触を消し去るかのようにまた着物の袖で擦った。
「丙に嫁いだならば、私のように夫をいびりまくるといい。意外と気が晴れる故、お勧めするぞ」
「…丙に会ってしまったら、殺しそうな気がする。だから会わない方がいいのかもしれない」
いつもの直衣と烏帽子姿ではなく、髪を1本に束ねて濃緑の着物を着崩した晴明は、あまり表情が動かないながらも息吹にちょこちょこついて回っていた若葉の姿を思い浮かべて小さな息をついた。
「そなたの気持ちもわかる。赤子の頃より我が手で育てていた子が離れていこうとするのだから、できれば背中を押してやってほしいが…手放せぬというならば、そなたが嫁に迎えて傍に居ればよい」
「俺が…若葉を嫁に迎えるだと…?」
またざわざわと胸騒ぎがして、“それ以上考えるな”と心が警鐘を鳴らしているのがわかった。
若葉に手を出してしまえば…毎日とっかえひっかえしていた女たちと若葉が同じになってしまう。
…違う。
若葉は、そんな軽い存在ではない。
「俺たちは生きる長さが違うじゃないか。馬鹿なことを言うな」
「十六夜と息吹も、長い間その問題で苦しんでいた。もし息吹が木花咲耶姫の化身でなかったとしても、あの2人は夫婦になっただろう。それほどに想い合い、愛し合っていた。そなたは違うのか?…否定するならば、違うのだろうな」
晴明の言葉のひとつひとつが頑なに閉ざされている心にひびを入れてゆく。
銀は戸惑い、若葉の居ない日々を想像して胸をかきむしる想いになった。