主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
銀は家に帰って来ない――

その間若葉も主さまの屋敷に泊まることになり、いつ帰って来るかわからないために荷物をまとめるため、1度銀と暮らしている小さな家に戻った。

…とても苦痛な作業だ。

小物や衣服を風呂敷に詰めている間、ついて来てくれていた朔が見守ってくれていたが…

嫁ぐ時もこうして荷物をまとめて、朔のように銀が見守る中別れを告げて出て行かなければならないのだ。

まるで予行練習をしている気分になった若葉は、“いずれは丙の妻に”という思いがどんどん薄れていっていた。


「…朔ちゃん、ぎんちゃんの着替え…持って行ってくれる?絶対準備してないんだから」


「わかった。用意してくれれば俺かお父様が持って行くから」


「ありがとう。ぎんちゃんったら家出なんかして…帰って来たら叱ってやるんだから」


浅葱色の大きな風呂敷を戸棚から取り出した若葉は、銀が普段着用している着物や帯などを綺麗に詰めて朔に手渡した。

離れている間…また女遊びをするのだろう。

いや、もしかしたら離れているのをこれ幸いにと歯止めがかからなくなるかもしれない。


「…若葉?どうしたの」


「私ずっとぎんちゃんが女遊びをしているのは赤ちゃんが欲しいからなんだと思ってるんだけど…この勢いだとすぐできちゃうかもしれないね」


「さあ…ぎんの考えてることは俺もよくわからない」


家を出て戸締りをした後、肩を並べて歩いている朔の顔を見上げた。

背も高くなって、横顔も凛々しくなり、引き結ばれた唇が色っぽくて、朔が喋る度に喉仏が上下する――

どんどん先を行ってしまう朔の存在にも焦りを感じていた若葉は、銀や朔と丙を無意識に比べてしまっていた。


「ひのえちゃんは優しくて、一緒に居ると安心するけど…まだ“惚れてる”っていう気持ちがわからなくて、これからもわからないかもしれないの。こんなんでいいのかな」


「焦る必要ない。丙だって待ってくれるって言ってくれたんでしょ」


「でも…こんなんでいいのかな。こんなんで…」


丙の手を選ぼうとしていることで離れて行ってしまう銀や朔――そして完全に人の世界に戻らなければならなくなり、主さまや息吹や雪男…百鬼たちとも疎遠になるだろう。

朔がひっそりと若葉の顔を盗み見した時、若葉はまたぽつりと呟いた。


「こんなんで…」


出ない答えを探し求めていた。
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