主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
それからというものの1週間…2週間…

銀が帰って来る気配はなく、若葉の気落ちは日に日に激しくなり、独りで部屋に籠もって出てこない日が続いた。

丙の家に行かない日も出てきたある日、若葉を心配した丙が主さまの屋敷を訪ねてきた。


「あの…すみません、若葉…さんは居ますか?」


「…居るけど、今は会わない方がいい」


応対に出た朔は、腕を組んで警戒している様を見せつけると、丙をじっと見つめた。

何かに気圧されたような気がした丙は思わず1歩後ずさりしてしまったが、毎日会っていた若葉が数日にわたって来なくなり、今日は絶対顔を見ようと決意して来たのだ。

瞳を細めている朔に負けまいとまた1歩前進した丙は、緊張のあまり声を上ずらせながらも、瞳を見開いて唇を真一文字に引き結んだ。


「わ、若葉に会うまでは帰りません!もしかして…病気なんですか?朔様…お願いですから、若葉に会わせて下さい!」


「俺の許可は必要ない。若葉がお前に会いたいと思えば、若葉から会いに行く」


「そんな…まさか俺に会いたくないんじゃ…」


棒立ちになって怖じ気ていると、廊下に沿った部屋の襖が開き、若葉がひっそりと顔を出した。

…だがその表情は冴えず、顔色が真っ白だったので心配した丙は無意識に草履を脱いで中へ上り込もうとして、朔の押し殺した声を聴いて立ち竦んだ。


「それ以上入るな。ここを誰の家だと思っている?殺されたいのか?」


「さ、朔様…」


「…朔ちゃん、怒らないで。ひのえちゃん…ごめんね、気分が冴えなくて…あまり外に出たくないの。ごめんね…」


「謝らなくていいって。俺が勝手に心配して会いに来ただけだから。…父さんと母さんも心配してるから、元気になったらまたうちに来いよ」


「うん、ありがとう。朔ちゃん、怒っちゃ駄目だよ」


小さく笑った若葉が襖を閉めて姿を消すと、朔は警戒を解いて柱に寄りかかりながら鼻を鳴らした。


「…俺だって心配なんだ。お前の代わりにちゃんと見ておいてやる。今日はもう帰れ」


「はい…。朔様…若葉をよろしくお願いします」


深く頭を下げた後、何度も振り返りながら屋敷を後にした丙を見送った朔は、若葉の部屋の前で一旦立ち止まったが…そのまま向かい側の自室へと戻った。

しばらく本を読んで過ごしていると、襖が少しだけ開いて若葉が顔を出した。


「朔ちゃん…ここに居てもいい?」


「うん。一緒に本見る?」


ほっとした顔をした若葉が隣に座り、一緒に1冊の本を覗き込む。

銀はあれから1度も、姿を現していなかった。
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