主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
日中を過ぎた頃、それまで晴明の屋敷でぐだぐだぐうたらしていた銀は、いち早く息吹の来訪に気付いて寝転がりながら耳をぴょこぴょこ動かした。


「晴明、息吹が来たぞ。どうせ俺を連れ戻そうとするんだろう。…まだ帰らないからな」


「ただ単に私に会いに来ただけかもしれぬぞ。早とちりはせぬ方がいい」


巻物に目を落としたまま晴明にちくりと嫌味を言われた銀は、息吹の怒涛の説得にも耐えられるように心構えをしてわざとらしく欠伸をした。

そうしていると、門を潜って庭から縁側にやって来た息吹が手を振って来たので尻尾を動かして返事をして背を向けた。


「銀さんが居るなんて珍しいね。毎日女の人と遊んでるって若葉から聞いてたから居ないと思ってたんだけど」


「…来て早々嫌味か?さすがはお前たち親子だな、よく似ている」


「嫌味じゃないもん、ほんとのことでしょ。ねえ父様、美味しいお団子を作ってきたの。母様と銀さんと、みんなで食べよ」


「おお、それはありがたく頂こう。で、今日は何の用事かな?」


ほら来たぞ、と身構えた銀だったが、息吹は晴明の手から巻物を奪って戸棚に戻すと、猫のように晴明に擦りついて風呂敷から柏餅や餡子餅などを取り出して晴明の手に押し付けた。

その間に山姫が熱いお茶を運んできて準備万端になったが…銀は若干拍子抜けしつつも手渡された柏餅を寝ころんだまま口に運んだ。


「でね、朔ちゃんがこの前はじめて主さまと一緒に百鬼夜行に出かけたの。帰ってきた時はすっごくはしゃいでて可愛かったの!」


「朔は落ち着いているように見えて意外と無邪気だからねえ。外見は十六夜で、中身は息吹だな。そろそろ嫁を迎えてもいい頃ではないのかい?」


そら来たぞ、と次こそは若葉の話題が上るかと思って再び銀が身構えたが…息吹は晴明の膝を揺すりながらなおも朔と主さまの話題を続けて、とうとう銀を起き上がらせた。

…だが自ら若葉の話題を口にすることを憚り、若葉の現在の状況を全く知らない銀は、息吹の口からそのことを聞きたがってずっと視線を送っていた。

だが息吹は目を合わせることなく朔と主さまの話題を楽しそうにしていて、銀を焦らせる。


息吹の狙いは、そこにあった。

何がなんでも銀の口から若葉の名を出させてやると決めて、晴明の屋敷に乗り込んでいたのだ。
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